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ハッスルカウント
PRIDEヘビー級GP2004 決勝戦
観戦記

決勝戦

全世界60億人の頂点に立つ、
史上最強の王者が遂に誕生。


2004/08/15
by B.M


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目次
前編 ハッスル音頭でビターン!

後編 試合詳細レポート
■空転──第1試合 中村和裕 vs ムリーロ=ブスタマンチ
■接戦──第2試合 アントニオ=ホドリゴ=ノゲイラ vs セルゲイ=ハリトーノフ
■圧倒──第3試合 小川直也 vs エメリヤーエンコ=ヒョードル
■怪力──第4試合 ケビン=ランデルマン vs ロン=ウォーターマン
■一歩──第5試合 ミルコ=クロコップ vs エメリヤーエンコ=アレキサンダー
■侍魂──第6試合 ヴァンダレイ=シウバ vs 近藤有己
■仰天──第7試合 アントニオ=ホドリゴ=ノゲイラ vs ヒョードル



 雨が降っていた。
 雨。
 涙。
 8月15日。
 終戦記念日。
 戦いの終わり。
 ついに4ケ月に渡って続いてきた戦いが終わりを告げるのだ。
 シトシトと大地を濡らす滴を眺めながら、自然と心はこれから始まる戦いへと焦点を定めていく──

 思えばここに至るまでに様々なドラマがあった。
 優勝候補筆頭のミルコは凶猿の一撃に倒れ。
 ノゲイラの新たなる大魔術が公開され。
 ヒールの小川はPRIDEでブレイクし。
 静かなるキラー、ハリトーノフがその力の片鱗を垣間見せ。
 ……そして、最後の皇帝は静かに、淡々と挑戦者を待っている……

 PRIDEヘビー級GP2004 決勝戦。
 生存者は誰だ。


前編 ハッスル音頭でビターン!

 さあ、今日全てが決まる!
 ……と、気合を入れて会場に着くと、いきなり「♪ハッスル、ハッスル」と、ハッスル音頭が出迎えてくれるのでした(笑)
 ビビってたじろぎました。

ハッスル! ハッスル!

 しかし、ちゃっかりCDを買う俺。小川には悲壮感というか、なにやら背負って戦いに向かうものの悲哀を感じます。うまくハッスルしてくれれば良いのですが。雨だと言うのに、まだ11時だというのに(開演は16:00)、やけに人がいました。凄い熱気だ。

雨のたまアリ

 いつも通り会場をブラブラとしてみます。例のZIPANG PRIDEボトルが展示されてました。
ZIPANG

 うーん、ちょっと欲しい。
 で、ZAVASが雨の中がんばっていたり。
 ところで

ひと口メモ「ZAVAS」ってなに?
Source of Athletic Vitality and Adventurous Spirit
= ZAVAS
ご存知でしたか?訳すと・・・

 ・・・ってそのまま頭文字取ったらSAVASのような気も。イコールじゃ無いんじゃ……(汗
 サバスだとブラックサバス風味になるから止めたんでしょうかね。
 などとブラついてると「握手会」の整理券を配ってたのでGET!!

チケット

 美濃輪に五味、それにマッハですからねぇ。将来の日本の格闘界を担う奴等ですから。こりゃー会っとかんと。その前には恒例の(?)ハッスル選手権、それに○×クイズなどが行われていた模様。あいかわらずイベント会場は大盛況。

イベント会場

 スペシャルゲストとしてホジュリオ、ジャクソン、Gシルバが登場──15分遅れで(笑)。

ホジュリオ、ジャクソン、ジャイアント=シルバ

 ジャクソンはかなりサービス精神旺盛。この後、決勝戦の休憩時間などにもサインをしたり、ポーズを取ったり、長いときでは数分もファンサービスしてまし た。一緒に写真を撮ったり、握手したり、ハグしたり。通路が通行不能になるぐらい(笑)。良いヤツだ。次のジャクソンvsシウバはジャクソンを応援しよう かな……(笑)

 ……で、握手の列に並んでいるとイベントには参加できないし、選手トークショーも見れないと言う罠。うはぁ。ちょっとションボリ。でも、美濃輪と会えるチャンスなので余裕。つーか、普通に美濃輪のファンだし。美濃輪選手には『火事場のクソ力で、リアルプロレスラーになってください!!』と、言おうと思ってたんだけど……かなり流れが速い。長いコメントは言えなそうだなぁ、と判断。そこで咄嗟に

俺『屁のツッパリはいらんですよ!!』
美濃輪『……(数秒)……ありがとうございます』


リアルプロレスラー

 よし、気持ちは伝わった(本当か)
 何がなんだか分からないけれど、熱くて格好良い。とにかくアグレッシブで前向きだ。底知れぬパワー、強靭なメンタル。そんなところが凄いと思います!……そういうのを全て凝縮したエール。届いたと思う。これからも頑張って欲しい。PRIDE武士道のリアルサムライ。

 さて、満足したので会場入り。
 たまアリは通路が広い方だが、それでもかなりの人だかりで先に進めない。
 後で発表されたところによると、本日の入場者数は47,629人。もちろんPRIDEのたまアリ興行での最高記録。入場ゲートをひとつ削っただけはある な(笑) それに、どう見ても満員だった。前の2回は若干の隙間を探せば見つかったのだが。今回は、本当に超満員。ギッシリ。空席には気付かなかった。

 今回はかなり、控えめに言ってもかなり近い席だった。

会場

 A席だったけど、前から6列目。なかなか。
 まずは高田統括本部長が現れ『こんにちわ!』 そして言葉少なに挨拶を締めると『生き様に 言葉はいらない!』と力強く宣言。
 流れるビデオクリップ。GPの今までの戦い、そしてそれぞれの選手の“日常”が映し出される。エメリヤーエンコ=ヒョードルと愛娘、セルゲイ=ハリトー ノフの訓練、アントニオ=ホドリゴ=ノゲイラの熱の入ったスパーリング。そして、海辺に佇む小川直也。美しい青空。そして『生き様を見よ』のメッセージ。 もう、眼鏡を外して目を拭うしかなかった。戦いの予感に心が震えた。この高揚感を感じることができた、それだけで自分の魂が洗われるような気がした。
 奥に見えるPRIDEマーク入りの垂れ幕が落ちると、奥からヤグラが現れた。そこで和太鼓、そして選手がヤグラの上に登場!
 さあ、開幕だ。どんどこどんどこ。



後編 試合詳細レポート

■空転──第1試合 中村和裕 vs ムリーロ=ブスタマンチ
中村和裕(日本/吉田道場/178cm/91.5kg/25歳)
ムリーロ=ブスタマンチ(ブラジル/ブラジリアン・トップチーム/185cm/91kg/38歳)

 開始早々ブスタマンチが中村をテイクダウン。中村は下から必死に防御。ブスタマンチも中村も動きを見せず、いきなりの膠着が訪れる。ううむ、せっかくの GPが幸先悪いな……。ブレイクがかかりスタンドに戻るが、打撃戦でもブスタマンチは優位に立つ。勢いに任せて暴れる中村をいなし、またもやフックの隙を ついてテイクダウン。ブスタマンチは立っての差しあいも上手く、なかなか中村は倒すことができない。老獪なベテラン、ブスタマンチのテクニックの前に中村 は翼をもがれていた。何も、やりたいことをさせてもらえない……

 お互いが防御に重点を置き、リスクの少ない戦法を取り続けている……しかも、お互いに決め手を持たない。せっかくの壮大なオープニングで盛り上がった空 気が一気に冷めていくような試合内容だった。会場の熱気もクールダウン。客席はシーンとし、どこからともなく野次が飛ぶ始末。現在のK-1会場に劣らない 湿りっぷりを見せた。一体この2人は何を見せたいのか? GPの1試合目という栄誉を与えられ、会場をヒートアップさせるのが仕事ではないのか? 武士道 でやるならまだしも、本戦の第1試合には全く相応しくない試合だった。いきなりトイレ&買い物タイムになる試合というのはどうだろうか?

 これからのPRIDEのためにも、敢えて中村には苦言を呈したい。ショッパかった、と。
 一発狙いで大振りのパンチをするならパンチ、トップキープするならトップキープから攻める技術、テイクダウンなら差しあいから倒す技術。もちろん、一本 取りたいなら関節技の技術。なんでも良いから磨いて下さい。どれも中途半端、何も決め手を持たないままにポイント稼ぎの試合をやらないでください。ハッキ リ言ってつまらなかった。もう、こんな煮え切らない試合は勘弁してください(特に大切なGPの1試合目では)
 それとも、これが中村和裕の出した答えなんでしょうか? ニーノともども武士道行き確。
勝者:中村和裕 判定3-0



■接戦──第2試合 アントニオ=ホドリゴ=ノゲイラ vs セルゲイ=ハリトーノフ
アントニオ=ホドリゴ=ノゲイラ(ブラジル/ブラジリアン・トップ・チーム/191cm/102kg/28歳)
セルゲイ=ハリトーノフ(ロシア/ロシアン・トップ・チーム/180cm/103kg/23歳)

 入場時、ノゲイラの表情が強ばっていた。何かを思いつめたような表情。そして、リングに向かって突如ダッシュ。気合が入っていることを窺わせた。対するハリトーノフは余裕の表情。若干の緊張は見えるものの、ノゲイラと面と向き合って口元に笑みを浮かべる余裕すら見せた。
 試合は打撃戦で始まった。足を使って良いポジションをキープするハリトーノフ、ヘッドスリップでパンチをかわしながら応戦するノゲイラ。お互いのパンチ が刺さっていた。と、ノゲイラが突如としてタックルへ、ハリトーノフをテイクダウンして上のポジションを得る。打撃も寝技も、そしてテイクダウンもてきる ノゲイラの強味が発揮された。ノゲイラが関節技を次々に仕掛け、さすがのハリトーノフも防戦一方になる。が、十字を持ち上げて返すと、今度はハリトーノフ が上から攻める展開に。ここでハリトーノフの圧力の無さが露呈する。ヒョードルのように一方的に殴ることができず、ノゲイラの仕掛けに捉えられてしまうの だ。ガードの中に入ることを諦め、スタンドに戻したハリトーノフ。直後にまたもやテイクダウンされ、サイドを許してしまう。そこから近藤有己ばりの膝蹴り なども混ぜてマウントを奪うノゲイラ。時間が少ないのを察してかパウンドによる削りに徹したまま1R終了。

 2R目になるとハリトーノフの打撃が効き始める。スタンド勝負は手数の面ではハリトーノフが上回ってきた。ノゲイラは形勢逆転で膝蹴りを狙い、豪快にス リップダウン。そこをハリトーノフがすかさず上を取りに行き、あわや、となる。いつも通りノゲイラが下からハリトーノフをコントロール……と、思いきや、 なんとノゲイラが隙を突いて立ち上がった! ハリトーノフのディフェンスを警戒したのだろうか? 自らガードを捨てる、柔軟な戦い方をできることもノゲイ ラは示したことになる。
 そこから再び打ち合いに。お互いの攻撃がヒットするものの、やはり懸念した通りハリトーノフのパンチの若干の軽さ、そしてノゲイラの尋常ではない打たれ 強さがあいまって決定打とはならない。ノゲイラはパンチを交換しつつもタックルに行く。が、ハリトーノフはすぐさまそれを押し潰す。ならば、と腕を取りに 行くノゲイラ。それを回転してかわすハリトーノフ! 素晴らしい動きだ!

 判定はノゲイラとなったが、もう1回やったら分からない雰囲気を残した。ハリトーノフは見事に存在感を示したと言える。できればもう1ラウンド、いや、できればもう1試合観て見たいと思わせる好勝負だった。きちんとしたワンマッチで見たい。
 ハリトーノフは見事にPRIDEの一員になってみせた。
勝者:アントニオ=ホドリゴ=ノゲイラ 判定3-0
ハリ
(席のすぐ近くをハリトーノフが通った。清々しい表情だった)


■圧倒──第3試合 小川直也 vs エメリヤーエンコ=ヒョードル
小川直也(日本/ハッスル/193cm/114kg/36歳)
エメリヤーエンコ=ヒョードル(ロシア/レッド・デビル/182cm/107kg/27歳)

 “男には一生に一度、ハッスルしなけりゃならない時がある”
 まさに、そう言うしかないカード。
 ハッスル普及のためにPRIDEのリングに上がり、腰を振る小川直也をヒョードルは『下品だ。私の試合では絶対にやらせない』と切り捨てた。
 それでも小川はハッスルの使者としてリングに上がる。
 花道に登場した小川を見た時、何か言い知れない悲しみ、悲壮な覚悟を感じ取った。
 圧倒的に不利だと分かっていても、相手が最強の王者だとしても。
 そう、男にはやらなきゃいけない時があるのだ。
 そんな覚悟が伝わってきた。

 リングに上がり、鋭い眼光で睨みつける小川に対し、いつにもまして不気味なくらい落ち着いているヒョードル。微動だにしないその姿は、遠くから見ると彫 像のようだった。割れんばかりの大歓声の中、試合開始。いきなりヒョードルが打って出た! パンチの猛攻で小川をロープ際まで押し込む。小川も負けじと打 ち返し、組み付きに行くが、そこへもヒョードルの打撃。気が付けば、テイクダウン。パウンドが容赦無く飛び、避けようとした小川は腕を取られてしまう。再 び打撃の圧力。そして、瞬く間に十字による一本。完璧な試合運びによる文句の無い1本勝ちだった。
 この試合を見て、改めてヒョードルの“全方位打撃”の凄さを思い知った。殴りながら掴み、殴りながら投げ、そして殴りながら極める。総合格闘技の理想の戦い方がそこにあった。
 逆に小川は“ハッスルする”こともできないほど完封されてしまった。痛い負け方だ。プロレスラー小川直也にプロレスさせずにトドメを刺したヒョードルの、氷の拳はあくまでも非情だった。
勝者:エメリヤーエンコ=ヒョードル 1R54秒 腕ひしぎ十字固め



■怪力──第4試合 ケビン=ランデルマン vs ロン=ウォーターマン
ケビン=ランデルマン(アメリカ/ハンマーハウス/178cm/99.5kg/33歳)
ロン=ウォーターマン(アメリカ/コロラドスターズ/188cm/123kg/39歳)

お互いのベースであるレスリングテクニックを生かした試合展開となった。ランデルマンがその怪力とバネ、PRIDEナンバーワンとも言えるテイクダウン能 力を見せた! なんと、体重20kg以上も差があるウォーターマンを抱えて投げ飛ばしたのだ! さすがである。が、上からの攻めがやはり課題。強引にパウ ンドを狙うばかりでポジショニングや腕の取り合いが甘い。パワー差のあるウォーターマンがランデルマンに絡みつくようにディフェンス、そのままブレイクが かかってしまった。またもやランデルマンがタックル、それをウォータマンが切るなどレスリング的な展開。ウォータ−マンのタックルをがぶったランデルマン が、バックを取ろうと勢い良く回転したが、勢いが良すぎてウォーターマンに振り落とされてしまう。上になったウォーターマンは関節技が苦手なランデルマン をアームロックで極める。
 それにしてもランデルマンは簡単な関節技にも弱い! まあ、勢いとバネがランデルマンの持ち味だが、最低限の防御は覚えないと勝てる試合も落としてしまう。勿体無い。
勝者:ロン=ウォーターマン 1R 7分44秒 アームロック



■一歩──第5試合 ミルコ=クロコップ vs エメリヤーエンコ=アレキサンダー
ミルコ=クロコップ(クロアチア/クロコップ・スクワッド/188p/103s/29歳)
エメリヤーエンコ=アレキサンダー(ロシア/レッド・デビル/198p/124s/23歳)

 復讐のターミネーターが皇帝の弟を指名した。もちろん、兄ヒョードルを引きずり出すためだろう。
 しかし、アレキサンダーとてサンボの実績がある。ただの踏み台になるつもりは無い──それが、試合内容にも現れていた。さすがに打撃戦ではミルコに軍配 が上がるものの、前に出て距離を潰すことによってその威力を殺していた。しかし、ミルコのタックルを切る能力、差し合いで耐える能力がアレキサンダーのグ ラップリング能力を上回っていた。何度かミルコを捉えるものの、アレキサンダーはテイクダウンまで至ることはできない。
 倒すことができなければ、ミルコを崩すことなどできない。タックルに行ったアレキサンダーはミルコに投げ飛ばされ、迂闊に立ち上がったところを左ハイ キックでバッサリ。完全に戦意を喪失したアレキサンダーを挑発的にパウンドでいたぶるミルコ。そう、彼の目にはヒョードルの後姿が見えているのだろう……
勝者:ミルコ=クロコップ 1R2分4秒 左ハイキック


■侍魂──第6試合 ヴァンダレイ=シウバ vs 近藤有己
ヴァンダレイ=シウバ(ブラジル/シュート・ボクセ・アカデミー/182cm/92.5kg/28歳)
近藤有己(日本/パンクラスism/180cm/87.5kg/29歳)

 不動心とは何か。それを追い求めた近藤が辿り着いたのは、PRIDEのリング……それも、GP決勝という最高の舞台だった。静かな佇まいでリングに登場 した近藤。荒ぶるシウバと対照的に落ち着いていた。「静」と「動」。「侍」と「野武士」。対照的な2人が向き合っている様は絵になる光景だった。現役王者 シウバが人気なのは当然として、近藤にも大きな声援が送られていた。これは意外。
 両者の『打ち合いに応じる』の宣言通り、激しい打撃戦となった。シウバは腰を残しての手打ちパンチの連打で近藤の入りを封じる。が、近藤も上手くそれを かわしてボディ、ストレートを放っていく。近藤がローキックやフェイントを駆使してシウバを揺さぶりに入る。しかし、手数で勝るシウバのフックが近藤に ヒット。そこで間合いを離すために後ろに退がったのが近藤の命取りとなった。勝負所となれば踏み込んで重いパンチを放ってくるシウバ。瞬く間に近藤を地に 這わせた。そして豪快なフットスタンプの雨。これがクリーンヒットの連発! この攻撃を本当に良く練習しているというのが伝わってきた。あっという間に近 藤は動かなくなった。
 無念、近藤、死す。しかし、あのシウバと真っ向勝負に挑んだことは評価できる。無謀な特攻ではない。組み合いではシウバに分が有ると見て、一番勝率の高い打撃勝負に出たのである。そしてそれを冷静に実行できる精神力。立派だった。
勝者:ヴァンダレイ=シウバ 1R2分46秒 フットスタンプ



■仰天──第7試合 アントニオ=ホドリゴ=ノゲイラ vs ヒョードル
アントニオ=ホドリゴ=ノゲイラ(ブラジル/ブラジリアン・トップチーム/191cm/102kg/28歳)
エメリヤーエンコ=ヒョードル(ロシア/レッド・デビル/182cm/107kg/27歳)

 決勝戦。ついに60億分の1が決まる。両者の国歌(ブラジル、ロシア)が斉奏され、緊張感が高まる。
 演奏中も身体を動かしているノゲイラ。じっとして微動だにしないヒョードル。
 2人が静かにリングの中央に歩き出し、睨み合う。
 史上最強の一戦が切って落とされた。

 最初のパンチの攻防は、ヒョードルがイニシアチブを取った。勢いのあるパンチでノゲイラを威嚇する。と、ノゲイラが胴タックル。ヒョードルは冷静に押し 潰して得意のポジションへ──つまり、ノゲイラのガードポジションである。ノゲイラは下から関節をしかけるが、全て切り返される。そして、抜け際に一発。 油断してるともう一発。前回の王座戦を彷彿とさせる展開となった。ノゲイラは上を取りたかったのだろうが、ヒョードルはスイープもさせず、ノゲイラを立た せない。完全にヒョードルが試合をコントロールしていた。もうすぐ、王者が誕生する──そう、思った瞬間。突如レフリーがタイムを指示した。??? ざわ つく観客。コーナーで止血をするヒョードル。血が止まらない。どうやら頭突きが入ったらしい。ああ、まさか……GPの決勝がノーコンテスト……呆然として リングを眺める。かなり長い中断があり、レフリーとジャッジによる協議が行われた。その結果、やはり試合はノーコンテストになった。世紀の再戦は消化不良 の結果となってしまった……
1R3分52秒 無効試合
ヒョードルのマイク

《特別考察1 PRIDE決勝で何が起こったのか?》
 うーん、本当に残念です。ちょっとショックでしたね……ここまで上手く来ていたイベントがこんな結末になってしまうなんて。好事魔多し。いや、格闘技に このような事故は付き物。仕方ないと言えますが……それにしても残念。ここまでDSEがかけてきた労力や、2人のハードな練習を考えると……勿体無い!
 さて、覆水盆に還らず。では、いったい何が起きたのか。ジャッジやレフリーの裁定は正しかったのか。その辺を検証してみたいと思います。


◆ストップは妥当か?
 これは、傷の深さから言うと妥当であると言えます。見た目にも内部にまで届くような裂傷。さらに、いくら止血してもなかなか出血が止まらない。
 そして、大事なことはこの傷がバッティングによってできたものであるということです。ルールに無い攻撃でできた傷ですから、それを負ったまま試合を続行することは大変に不公平です。考え合わせると、ストップは仕方ないことだと思います。
 逆にこれが出血やカットに至らず、そのまま試合が続けられていたらと思うとゾっとします。止めて大正解。


◆故意か、偶然か?
 ハッキリとは言えません。不確実な要素がたくさんありますので、100%と言うことはできませんが、事故の可能性が高いと思います。
 バッティングはガードに覆いかぶさってくるヒョードルをノゲイラが半分立ち上がって掴もうとした時に発生しました。実は、これ以前にも試合中にこの攻防は何度か有り、その度にノゲイラは起き上がってヒョードルを掴もうとする素振りを見せていました。
 おそらくその行動が偶然に入ってくるヒョードルとかち合ってしまったのでは無いかと思います。


◆イベント主催者の判断としてはどうか?
 こうして「事故によるバッティング」ということが分かり、ヒョードルは試合をできない状態だったのですから無効試合にするのは当然だと言えます。
 レフリー、ジャッジ、そして高田統括本部長までもがリングに上がって釈明し、謝罪していました。誠実な態度だったと思います。そしてなんとその場で「次のPRIDEで再戦させたい!」とまで公言した。その場でできる最大限の誠意だったと思います。
 格闘技のルールを守り。客にたいしてできるだけの誠意を表わし。突発的な事故に良く対応していたと思います。


 ルールを破って荒唐無稽な興行をしないというDSEの基本方針、ポリシーを明確に表 現したと言う点は評価しています。PRIDEに対する誠実さ。一過性の騒ぎ──そう、PRIDEヘビー級GP2004のことです──よりも、PRIDEや 総合格闘技の未来を見据えた決断。GPの決着よりもフェアさや選手の生命を上においた考え方。これもまた、PRIDE。これもまた、格闘技の一面。


《特別考察2 ヒョードルとノゲイラを考える》
◆ヒョードルの弱点?
 この“事故”によりヒョードルの弱点がハッキリしました。ヒョードルはこの部分をカットし易く、このせいでTKO負けしたこともあります。よって、ヒョードルを倒すならまさにこの一点、アキレスの踵のようなこの一点を狙うのが有効でしょう。
 セルゲイ=ハリトーノフは敢えて語りませんでしたが、おそらく彼やパコージンの言う“ヒョードルの弱点”の1つはここでは無いかと思います。ミルコやハ ントといったストライカーがヒョードルと戦うとしたら真っ先にここを狙うでしょう。「ミルコ、ヒョードルを出血TKO」……これは、有り得るストーリーで す。


◆このまま試合が続いていたら?
 おそらくヒョードルが勝っていたでしょう。それだけに彼にとってはとても残念な事故だったのではないかと思います。
 まずスタンドでの攻防はヒョードルがやや有利でした。そして、ノゲイラはヒョードルの上を取ることができませんでした。さらにキャッチになるほど下から 関節を取ることもできませんでした。ヒョードルは易々とノゲイラの“庭”であるガードの中に入り、攻撃を繰り出していました。
 そう、最初に痛烈な打撃が無かったことを除けば前回の試合とほぼ同じ展開でした。ノゲイラが打撃で弱っていなければ次は分からない……と、思いました が、ヒョ−ドルの関節のディフェンス、上をキープして攻撃する能力はやはりズバ抜けています。しかし、ノゲイラは1回戦のハリトーノフ戦でダメージを受け ていたという見方もできます。そう、真の決着はやはりワンマッチでつけるべきなのです。


 ……と、書いたらkentaさんから「ノゲイラの評価が低すぎる! シャギャー!!」と突っ込みを受けましたのでちょっとノゲイラについても書いてみます。

◆ノゲイラの評価
 前回の試合よりもノゲイラが動いていたというのが感想です。ただし、試合を優勢に進めていたかというと疑問が残ります。前回の王座戦終了後、ノゲイラサ イド(及びノゲイラ)は『最初のヒョードルのパンチで身体が動かなくなった。だから、あんな試合展開になってしまった』と言っていました。今回は“ビッグ パンチ”を貰っていません。つまり、ノゲイラはほぼ万全の態勢だったわけです(しかし、ハリトーノフにこっぴどく殴られていました……この点は考慮すべき です)。そして、どういう展開になったか。
 ヒョードルのゲームプランは明快です。スタンドで打ち勝ち、テイクダウンで上を取り、下から攻めるノゲイラを切ってパウンド。それを的確にこなせば、ま さに横綱相撲で勝利は転がり込んできます。現に、ヒョードルは今までの試合をそうやって勝ち進んで来ました。そして、今回の試合でもそれを実行していまし た。打ち合いで退かず、組み合っても下を取られず、下からの関節を全て凌いでパウンドを落とす。勝利の方程式通り。
 対するノゲイラは、確かに前回の王座戦よりも良く動いていました。関節を狙う回数も多く、パウンドも防御していました。しかし、その原因はおそらく“今 回は序盤にビッグパンチを貰ってない”と言う点にあるのではないでしょうか。下に居ては危険な筈なのに、スイープすることも、立ち上がることもできなかっ たのです。ハリトーノフ戦では立っていたわけですから、つまり、これはヒョードルがスイープも立つことも防いでいたということになります。ヒョードルは連 続して圧力をかけ、ノゲイラのガードに易々と入り込んで攻撃を繰り出していました。立とうとすると身体をあずけて地面に倒していました(それがバッティン グ事故を引き起こしたわけですが)
 つまり、あの時点でノゲイラの進化らしい進化は見えていなかった、いや、見えてはいたけどその部分はヒョードルが防いでいたということになります。 ヒョードルは倒した相手にひっくり返されたり、立たせてしまったりすることを防ぐ術に長けています。あのまま試合が続いていたとしてもヒョードルの攻撃 ターンが長く続いたのではないかと思います。
 もちろんノゲイラがそこから一瞬の隙を突いて一本を取る可能性は常にあるでしょう。実は、それは前回の王座戦も同様で。ノゲイラにはその力があります。 それは以前から評価されていることで、特に今回だけそれが見えたということもありません。現にヒョードルと同じくノゲイラを研究しているハリトーノフから は一本を取れませんでした。RTTはかなり柔術対策を練り上げている気がします(レッド・デビルについては不明。これからヒョードルが柔術に弱くなってい くことも考えられます)
 それよりも今回評価したいのは「自分からタックルに行く」「危ない時は立つ」という意識が出てきたことです。何でもかんでも引き込むのではなく、上を取 り、下になったら逃げるという戦法を取ろうとしている点が良かったと思います。某前田兄貴曰く「ガードなんて殴られ放題のジリ貧ポジションやんけ。もう時 代は終わる」。あくまでも流れの中でガードを使うという意識がノゲイラに芽生えたように思えます。ハリトーノフ戦でその一端が垣間見えました。ベストコン ディションのノゲイラがヒョードルの上を取ったら……面白い展開になりそうです。果たしてヒョードルはスイープできるのか!? そう、つまりは次戦に期 待ってことです!


 ……と、いろいろな視点からこのノー・コンテストに迫ってみました。残念であり、悔しくもあり、勝利の女神の気まぐれさに苦笑いさせられるしか無い出来事でしたが……。起きたことは、もう、時を遡りでもしなければ消せません。
今回の 結果を受け止め、次回の試合に期待しようではありませんか。



全世界60億人の頂点に立つ、
史上最強の王者が遂に誕生。


──それは、儚い泡のように消散してしまった。
日本人の、いやハッスルの期待を背負った小川はヒョードルの前に沈み。
最後の砦と言われた近藤は崩れ落ち。
最強の対決は闇の中へと消えていってしまった。
8月15日、終戦。
喪失感。

しかし、失ったものの大きさを思えば思うほど。
PRIDEに対する期待は消えるどころか膨らんで行く。

次の戦いを。
アイツに勝てる日本人を。
夢を託せる男を。
もう一度再戦を。
真の決着を。
60億分の2は決まった、次は2分の1だ。

夢は、まだ終わっていない──

Dream is not end.

04/08/15
by B.M
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